1. 離れ離れの退院。NICUという「遠い場所」
私が一足先に退院を迎えた日、心に広がったのは喜びではなく、言いようのない孤独感でした。
※本記事はプロモーションを含みます。
同じ病院にいるのに、末っ子の元へ行くにはいくつもの扉を通り、消毒を重ねなければならない。母でありながら、何一つお世話をしてあげられないもどかしさが、NICUを果てしなく遠い世界に感じさせていました。
自宅に戻って上の子たちと過ごしていても、頭のどこかでは常に、病院のNICUの中で一生懸命戦っているあの子のことばかりを考えていました。
2. 静寂を切り裂く深夜の着信。「今すぐ来てください」の恐怖
退院後の私を待っていたのは、夜の闇に怯える日々でした。
枕元に置いた携帯電話が、深夜の静寂を切り裂いて鳴り響く。
病院からの着信は、常に命の危機を知らせる合図。
液晶に表示される「病院」の文字を見た瞬間、全身の血の気が引き、耳元で心臓の鼓動がうるさいほど激しく打ち鳴らされました。
「赤ちゃんの容態が急変しました。今すぐ来てください」
受話器越しに聞こえる、看護師さんの緊迫した声。
その言葉は、いつだって「最悪の事態」を覚悟させるに十分な響きを持っていました。
深夜に鳴る音に心臓が止まりそうになりながら、往復4時間の道のりを何度も駆け抜けました。
後から知ったのは、私が入院している間、夫が一人で膨大な数の同意書にサインをしていたこと。
それはすべて、この子の命を繋ぎ止めるための、あまりに重い契約でした。
街灯だけが等間隔に続く暗い景色の中、「神様、お願い、間に合って。あの子を連れて行かないで」と、涙で歪む視界の先をただひたすら見つめていました。
あの時、冷たい夜風の中で感じた圧倒的な孤独と、あの子が消えてしまうのではないかという恐怖は、今でも私の魂に深く刻まれています。
3. 重なる手術と失明の危機。無力な母の祈り
生まれて数日での心臓手術、そして2度にわたる網膜の手術。
小さな体にメスが入るたび、「代わってあげたい」と何度願ったか分かりません。
特に左目は「失明する可能性が高い」という非情な宣告。2度目の手術にすべてを託し、ただ祈ることしかできない自分の無力さに、何度も打ちのめされました。
それでも、あの子はその小さな体で、いくつもの絶望を跳ね除けていきました。
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4. 予定日に重なった奇跡の退院。そして最後に知った「繋がれた命の対価」
4月に出産し、孤独な闘いを続けてきた我が子が、ようやく家族揃って退院の日を迎えることができました。
それは奇跡的にも、本来の出産予定日だった8月のお盆の時期。742gで生まれ、一時は520gまで減った体重も、退院時には3,000gを超える立派な体つきになっていました。
「自力での呼吸は難しい」と言われ、退院直前まで家庭用酸素ボンベの使用指導を受けていた私に、さらなる奇跡が訪れます。
退院間際、医師から告げられたのは「もう自力で呼吸ができています。酸素ボンベは必要ありません」という信じられない言葉でした。
そして退院の際、看護師さんからある数字を耳にしました。
「この子が今まで命を繋ぐために、いくらかかったか知ってる?」
NICUの入院費、心臓や眼の幾度にもわたる手術、そして命を守るための24時間の処置。すべてを合わせると、その額は約3,000万円にのぼっていました。
その莫大な費用のほとんどを、国の制度が、つまりは社会の皆さんが支えてくれたのです。
この小さな命は、私たち家族の力だけでなく、多くの人の善意、そして高度な医療によって「生かされた命」なのだと、改めてその重みを噛み締め、涙が止まりませんでした。
【この記事のまとめ】
4ヶ月にわたるNICUでの闘いは、親としての無力さを知る時間でもあり、それ以上に「人の温かさ」と「命の底力」を知る時間でした。
「90%の確率で障害が残る」と宣告され、その不安は今も消えたわけではありません。この先どうなっていくのか、あの子に何が起きるのか、正直まだ分からないことばかりです。
けれど、あの時あんなに小さかったあの子が、今、私の目の前で力強く呼吸し、確かに生きている。
未来への不安はあっても、まずはこの奇跡を信じて、一歩ずつ進んでいこう。退院の日の青空の下、私はそう心に誓いました。
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超未熟児【最終話】 命の勲章を胸に。520gから始まった軌跡と、子供たちが教えてくれたこと
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